1.建設工事紛争審査会とは
建設工事紛争審査会とは、建設工事の請負契約に関する紛争の簡易・迅速・妥当な解決を図るために、当事者の申請に基づいて、あっせん、調停、仲裁を行うADR機関(裁判外紛争処理)です。
国土交通省及び各都道府県に設置され、建設工事の請負契約に関する紛争の処理を行います。国土交通省に設置されたものが中央建設工事紛争審査会、各都道府県に設置されたものが都道府県建設工事紛争審査会です。中央審査会と各都道府県審査会には担当する事件の管轄区分が決まっています。
2.建設工事紛争審査会で取り扱う事件
当事者の一方又は双方が建設業者である場合の紛争のうち工事の瑕疵(不具合)、請負代金の未払いなどのような「工事請負契約」の解釈又は実施をめぐる紛争の処理を行います。
不動産の売買契約に関する紛争、専ら建物の設計に関する紛争、工事に伴う近隣者との紛争、直接契約関係にない元請・孫請間の紛争、雇用契約に関する紛争などは、建設工事紛争審査会では取り扱えません。
代表的な例として以下のような紛争があります。
(1)契約の解除に関する紛争
住宅の新築を注文した個人注文者が請負人に対して新築工事の請負契約の解除を求める紛争
(2)工事の瑕疵に関する紛争
自社ビルの修繕工事を注文した法人注文者が請負人に対して工事完成後に剥離した外壁タイルの補修を求める紛争
(3)工事代金の支払いに関する紛争
請負人が法人注文者に対して追加変更工事代金の支払いを求める紛争
(4)下請代金の支払いに関する紛争
下請負人が元請負人に対して下請代金の支払いを求める紛争
3.建設工事紛争審査会での紛争処理手続
審査会は「あっせん」、「調停」、「仲裁」のいずれかの手続によって紛争の解決を図ります。
申請人は、事件の性質、解決の難易、緊急性などを判断して、そのいずれかを選択して申請することとなります。(ただし、「仲裁」の申請をするには当事者間に「仲裁合意」があることが必要です。)
審査会の行う紛争処理の手続は、原則として非公開です。
「あっせん」、「調停」、「仲裁」の申請書が審査会に提出されると、法律、建築、土木等の専門家の中から担当委員が指名されます。担当委員は、当事者双方の主張を聞き、原則として、当事者双方から提出された証拠を基にして紛争の解決を図ります。
※仲裁合意とは、紛争の解決を第三者の仲裁に委ね、裁判所への訴訟提起はしないことを約する当事者間の契約です。契約を証するため仲裁合意書が必要です。
4.建設工事紛争審査会の管轄区分
紛争当事者である建設業者の許可の区分等にしたがって、中央審査会と各都道府県審査会には担当する事件の管轄区分が決まっています。管轄区分にしたがって適切な審査会に申請をしなければなりません。
(1) 中央審査会
① 当事者の一方又は双方が国土交通大臣の許可を受けた建設業者である場合
② 当事者の双方が建設業者で、許可をした都道府県知事が異なる場合
(2) 都道府県審査会
① 当事者の一方のみが建設業者で、当該都道府県の知事の許可を受けたものである場合
② 当事者の双方が当該都道府県知事の許可を受けた建設業者である場合
③ 以上のほか、当事者の双方が許可を受けた建設業者でなく、その紛争に係る建設工事の現場が当該都道府県の区域内にある場合
(3) 管轄合意
上記(1)(2)にかかわらず、当事者双方の合意により、いずれの審査会にも紛争処理を申請することができます。
5.紛争処理に要する費用
紛争処理の手続を行うには、以下のような費用が必要になりますが、原則として、両当事者はそれぞれ各自の出費分を負担することになっています。
(1)申請手数料
申請手数料の額は、「請求する事項の価額」(あっせん、調停、仲裁を求める事項の価額)に応じて定められています。
①あっせん申請手数料
請求する事項の価額 | あっせん申請手数料の額 |
---|---|
100万円まで | 10,000円 |
500万円まで | 価額(1万円単位)×20円+8,000円 |
2,500万円まで | 価額(1万円単位)×15円+10,500円 |
2,500万円を超えるとき | 価額(1万円単位)×10円+23,000円 |
②調停申請手数料
請求する事項の価額 | 調停申請手数料の額 |
---|---|
100万円まで | 20,000円 |
500万円まで | 価額(1万円単位)×40円+16,000円 |
1億円まで | 価額(1万円単位)×25円+23,500円 |
1億円を超えるとき | 価額(1万円単位)×15円+123,500円 |
③仲裁申請手数料
請求する事項の価額 | 仲裁申請手数料の額 |
---|---|
100万円まで | 50,000円 |
500万円まで | 価額(1万円単位)×100円+40,000円 |
1億円まで | 価額(1万円単位)× 60円+60,000円 |
1億円を超えるとき | 価額(1万円単位)× 20円+460,000円 |
(2)通信運搬費
審査会事務局が書類などを送付する費用として、申請人は、申請時に次の金額を予納します。
通信運搬費の予納額
あっせん:10,000円
調停:30,000円
仲裁:50,000円
(3)書類、証拠の作成費用
審査会に提出する準備書面、見積書、鑑定書その他の書類や証拠の作成に要する費用は、それぞれの当事者が負担します。
(4)立入検査、証人尋問等の費用
立入検査に要する旅費などの審査会経費、証人尋問の録音・反訳の費用などは、両当事者の合意により双方が折半で負担するのが通例となっています。